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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)220号 判決 2000年3月28日

原告

日本鋼管ライトスチール株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

被告

日東鐵工株式会社

代表者代表取締役

【D】

訴訟代理人弁護士

鈴木和夫

鈴木きほ

同弁理士

【E】

主文

特許庁が平成10年審判第35359号事件について平成11年5月14日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1請求

主文と同旨の判決

第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、登録第924158号意匠(平成5年3月9日意匠登録出願、平成7年2月22日設定登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成10年8月7日、本件登録意匠の登録を無効とすることにつき審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成10年審判第35359号事件として審理した結果、平成11年5月14日、本件登録意匠の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年6月21日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本件登録意匠(審決書別紙第一参照)は、甲号意匠(登録第628336号意匠。審決書別紙第二参照)と意匠に係る物品が実質的に同一であって、かつ甲号意匠に類似し、意匠法3条1項3号に該当するから、その登録を無効とすべきである旨判断した。

(ただし、審決書6頁8行、9行の「土止め用パネル」は「土留用パネル」の誤記である。)

第3審決の取消事由

1  審決の認否

(1)  第一(請求人の申し立て及び理由。審決書2頁3行ないし4頁1行)及び第二(被請求人の答弁及びその理由。同4頁3行ないし6頁4行)は認める。

(2)  第三(当審(審決)の判断。同6頁6行ないし14頁1行)中、1(本件登録意匠。同6頁7行ないし11行)及び2(甲号意匠。同6頁13行ないし18行)は認める。

同3(本件登録意匠と甲号意匠の比較検討。同6頁末行ないし13頁14行)のうち、両意匠の意匠に係る物品が実質的に同一であること(同6頁末行ないし7頁1行)は認める。共通点、差異点の認定(同7頁1行ないし9頁15行)のうち、共通点(1)の認定(同7頁5行ないし10行)、差異点(ハ)の認定(同8頁17行ないし9頁4行)は争い、その余は認める(ただし、差異点は他にもある。)。類否の判断(同9頁16行ないし13頁14行)は争う。

同4(結び。同13頁16行ないし14頁1行)は争う。

2  取消事由

審決は、本件登録意匠と甲号意匠との類否の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)

審決は、両意匠の共通点(1)として、「支柱部の上端または下端部に横断面が扁平コ字状で背の低い接続金具を突設した基本的な構成態様のものである点」(審決書7頁8行ないし10行)と認定するが、誤りである。

本件登録意匠においては、接続金具を支柱の下端部に取り付け、上面を面一状とし突出部をなくすることにより、バックホウ等の作業による押し込みが容易であり、地面からパネルの接続金具が突出することなく安全性が確保されるなどの利便性を得ている。これに対し、甲号意匠は、U字状吊り下げ金具の方向等からパネル上下が逆に使用されるものではない。さらに、両意匠の接続金具は、取り外し自在ではない。

したがって、接続金具の設置位置の上下を問わず共通点とした審決の認定は、誤りである。

(2)  取消事由2(差異点の認定の誤り)

ア 差異点(ハ)(パネル部の前面部等)の認定の誤り

審決は、差異点(ハ)として、「本件登録意匠は、前面側上下三列に微小円状突起を等間隔に配列し、」(審決書8頁17行ないし19行)と認定するが、誤りである。

本件登録意匠のパネル部前面の突起は、3列とも幅3分の1に当たる中央部は、他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっている。

イ 差異点の看過

甲号意匠のパネル部前面側である正面図に表れた複数の平行な帯状部分のうち、最上部と上から4番目の細幅帯状部分は、2番目と3番目のやや幅広の帯状部分からやや奥まった段差部を形成している。

これに対し、本件登録意匠のパネル部前面には、段差がない。

審決は、この差異点を看過している。

(3)  取消事由3(両意匠の比較検討の誤り)

ア 共通点(1)(全体の構成)についての判断の誤り

審決は、「共通点について、(1)の点は、土止め用のパネルとして土止め方式の基本とその構造の一致からくる共通点であり、形態全体の基調を決定している点であって、その影響は、大きいというべきである。」(審決書9頁19行ないし10頁3行)と判断するが、誤りである。

共通点(1)として審決が認定した「全体が、横長方形板状のパネル部の前面左右端沿いにパネル部の高さと略同高の角柱状の支柱を接合立設し(た)」点(審決書7頁5行ないし7行)は、両意匠以外にも、甲号意匠の先行意匠である甲第5号証(登録558183号意匠公報)、甲第6号証(ドイツ特許第2556970号公報)及び甲号意匠の後願意匠である甲第7号証(登録第868572号意匠公報)にもみられる。そうすると、この共通点(1)の態様は、土留用パネルとしてその方式や構造からくる共通点であり、甲号意匠特有の特徴点ではない。

したがって、上記共通点(1)は、意匠の類否判断において、両意匠の共通の形態基盤となる程度のものであって、意匠の類否判断に与える影響が大きいとした審決の判断は誤りである。

イ 共通点(2)(パネル部の構成比等)についての判断の誤り

審決は、共通点(2)について、「全体の中で最大面積を占め、視覚的にも強く訴える主要部の態様の共通点であって、その影響は、かなり大きいものである。」(審決書10頁4行ないし6行)と判断するが、誤りである。

パネル部の構成比については、略同様な構成比を有する土留用パネルが、甲第5ないし第7号証、甲第8号証(登録第787615号意匠公報)及び甲第9号証(特開昭52-135517号公報)等にみられる上、支柱の孔に水平梁を固定して数段に積み重ねていくこの種物品の機能からしても、パネル部は自ずと一定程度の横長の構成比率のものが一般的であって、パネル部の構成比自体が甲号意匠の特徴点とはいい難い。

「太鼓造り」の点については、これが概略フラットな板状のものによって挟持した構造を意味すると解したとしても、甲第9ないし第15号証にみられるように、前後面を略平坦にした土留用パネルは甲号意匠出願前から極めて一般的に知られたものであるから、この点が甲号意匠の特徴点とはいえない。

したがって、共通点(2)の影響はかなり大きなものであるとした審決の判断は誤りである。

ウ 共通点(3)(支柱部の外形)及び(4)(接続金具の外形)についての判断の誤り

審決は、「(3)の点は、パネル部に次いで大きな部分であって、機能上も視覚的にも重要な主要部の全体の態様に係る共通点であって、その影響は、かなり大きいものというべきである。」(審決書10頁7行ないし10行)、「(4)の点は、面積的にはさほど大きい部分とはいえないものの、このパネルを上下に重ねる際において重要な機能を果たす部分であって、視覚上も目立つものであり、接続金具の全体形態及び支柱部との連続態様の共通感を感得させ、その影響は、相当程度のものというべきである。」(同10頁11行ないし17行)と判断するが、誤りである。

共通点(3)及び(4)は、甲第5ないし第7号証にみられるものであって、両意匠の類否判断に与える影響はさほど大きくはないものというべきである。

エ 差異点(イ)ないし(ハ)についての判断の誤り

(ア) 差異点(イ)(パネル部下端寄り部分)について

審決は、差異点(イ)について、「(イ)の点は、全体からみて相当の面積を占める部分の態様の差異であって、視覚にも訴え、無視することのできないものであるが、その差異が甲号意匠の方にむしろ特徴があることによる点も考慮すると、全体としてその影響は、相当乃至軽微程度に評価されるものである。」(審決書11頁7行ないし13行)と判断するが、誤りである。

現実に視認できる顕著な差異は、高く評価すべきである。

(イ) 差異点(ロ)(パネル部の上辺沿い部分)について

審決は、差異点(ロ)について、「(ロ)の点は、面積的には、狭い部分に係る点とはいえないものであるが、その段差の態様が特段に特徴的で視覚に強く訴えるほどのものとまではいえず、その影響は、軽微に止まるものである。」(審決書11頁13行ないし18行)と判断するが、誤りである。

パネル部の構成は、支柱の構成とともに両意匠の類否判断の決め手となる要部に関するものであるから、このように一部のみを取り出して全体の類否判断への影響を論ずることは誤りである。

また、前記(2)イのとおり、段差は、上部のみではなく、下部(上から4番目の細幅帯状部分)にも設けられている。

被告は、甲号意匠の段差は、パネル表面を形成する薄い板の厚さ(実物において約3ミリメートル程度)によって生ずるわずかなものにすぎない旨主張する。しかしながら、意匠の認定は、願書及びそれに添付された図面によってされるべきところ、パネル部の横幅が2ないし3メートルとすれば、その図面から計算上割り出した甲号意匠のパネル面の板体の厚みは1センチメートル強となるものである。

(ウ) 差異点(ハ)(パネル部の前面部等)について

審決は、差異点(ハ)について、「微小円状突起の配列と平行線の差異は、内部の梁へのパネルの接合の技法の違いにより、結果として生じた差異であって、積極的に美的効果を意図して現されたものでなく、また図面上は、明確な差異として目に映るものの、実物を想定したときには、それほどに目に訴えるものとは認められず、その影響は、微弱である。4個の小円孔とU字状フックの差異は、本物品の吊り下げ方の違いに起因する差異であるが、共に常套的な吊り下げ方に過ぎず、その差異に係る面積も極狭く、その態様も共に一般的で目立たず、その影響は、微弱である。」(審決書11頁18行ないし12頁10行)と判断するが、誤りである。

a ある形態が美的効果を意図して作られたものか否かという点は、創作者の主観の問題とも関係し、客観的なものではないから、その点を意匠の類否判断に持ち込むことは、誤りである。本件登録意匠の小突起の配列は、3列とも左右部分は粗、中央部は密な間隔で配置され、リズム感のある一定の美的まとまりを有しており、十分に美的配慮がなされているというべきである。

パネル部前面は、この種物品が掘り溝の内側に設置された際に、内側で作業を行う看者の目に最も触れやすい部位であること、及びこの種物品が建設業者などの特定の看者に使用され、接合状態やその強度、水や土砂等のパネル面へのたまり等種々の点から観察される部分であることを考慮すれば、両意匠のパネル部前面の差異が、両意匠の類否判断に与える影響の最も大きな要素である。

そして、この種物品の実際の大きさは、横幅が略2ないし3メートル近いものであるから、図面上は小さな突起であっても実際の各突起の大きさは、直径が2ないし3センチメートル程度のものであって、これらの突起が列状に配列されているか否かは、看者の注意を大いに惹くものである。

b なお、本件登録意匠の類似意匠登録には混乱がみられたため、原告は、平成12年1月19日付け登録により、類似意匠登録第1号、同第3号及び同第5号の意匠権を放棄した(甲第19号証)。これによって、本件登録意匠の特徴は、本意匠及び類似意匠の全体を通じて矛盾なく具備されるようになったものである。

c 吊り下げ部がパネル内に設けた4個の小円孔か(本件登録意匠)、U字状フックか(甲号意匠)の差異については、はっきりと構成が異なる目立った差異である。

オ 差異点(ホ)(接続金具)についての判断の誤り

審決は、「(ホ)の点は、その形状の差異については視覚上認識可能ではあるが、全体からみると小さな部分の差異にすぎず、微弱乃至軽微に止まるものであり、その取り付け位置の違いについては、単体のパネルとしてみれば明確な違いとして認識されるものの、このパネルを上下左右に連結した通常の使用状態においては、近接した態様に現れる点を考慮すると、その差異感は、著しく減少するものであり、その影響は、結局全体として、微弱乃至軽微に止まるものである。」(審決書12頁16行ないし13頁6行)と判断するが、誤りである。

(ア) 接続金具の位置の差異について

前記(1)のとおり、両意匠の接続金具の位置についての差異は、基本的構成態様の差異として認定されるべきものである。

これを具体的構成態様についての差異点とみたとしても、パネル単体時や施工途中の上端部及び施工完成時における上端部の差異としても評価されるべきである。そうすると、接続金具が上に突出するか下に突出するかは、パネル部前面の構成の差異同様、両意匠の類否判断を左右する差異として位置付けられるべきである。

(イ) 接続金具の形状の差異について

甲号意匠において、上方部に突出した接続金具の先端が鋭利に尖っている点は、安全性の観点から、この種物品の看者である建設業者の注意を惹く部分であるといわざるを得ない。

カ 差異点全体の奏する効果についての判断の誤り

審決は、「上記差異点が及ぼす影響は、これらが纏まって相乗的な効果が付加される点を考慮したとしても、全体として相当とまではいえないものといわざるを得ない。」(審決書13頁7行ないし10行)と判断するが、誤りである。

本件登録意匠は、小円形突起部や小円形透孔を中心としたソフトで滑らかな造型によって全体が統一されたものであり、段差と屈曲部で直線的な構成を特徴とする甲号意匠にはない意匠的効果を発揮している。この点の審決の判断内容は、極めて形式的なものにすぎない。

第3審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

原告主張の取消事由は争う。

2  反論

(1)  取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)について

ア 本件登録意匠は、「土留用パネル」についての意匠であるところ、土留用パネルは、上下水道の埋設工事等に用いられる「たて込み簡易土留工法」において、その掘削した土壁部分の土留工事に用いられる土留装置の主要な構成部材を形成するものである。

「たて込み簡易土留め」には、スライドレールにパネルをはめ込んでいく「スライドレール方式」と、両側に縦梁を固着したパネルを用いる「縦梁プレート方式」の両方式があるが、本件登録意匠及び甲号意匠は、共に縦梁プレート方式に用いられる土留用パネルについての意匠である(乙第8号証)。縦梁プレート方式における土留用パネルは、横長長方形状の「パネル」、パネルの両側端に固着した角柱からなる「縦梁」、及び「接続金具」から構成されるものであるから、その基本的構成態様は、横長方形板状のパネル部、略同高の角柱状の支柱、支柱部の上端又は下端部に設けられる横断面が扁平コ字状で背の低い接続金具からなるものとして表出されるものである。

イ 本件登録意匠は、その支柱や接続金具等に現れた形態から見て、上下反転使用が可能であり、接続金具の形成位置が本件登録意匠と甲号意匠とで異なるものと認めることはできない。

本件登録意匠の類似登録意匠6件(乙第1ないし第6号証)のうち、5件(類似登録意匠第1号、同第3ないし第6号)は、接続金具が上向きに突出したものであることも、上記の上下反転使用が可能であることを裏付けるものである。このことは、原告がした本件登録意匠の類似登録意匠第1号、同第3号及び同第5号の放棄後も同様である。

よって、本件登録意匠と甲号意匠が共に上記のとおりの共通の基本的構成態様を有するとの審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2(差異点の認定の誤り)について

ア 差異点(ハ)(パネル部の前面等)の認定の誤りについて

原告主張のように、「中央部が密、その他の部分が粗」に構成されていることは認める。

しかし、中央部及びその他の部分は、それぞれの部分においては、微小円状突起を等間隔に配列している。しかも、上下3列の突起列間の間隔は、等間隔である。したがって、審決のこの点の認定に誤りはない。

イ 差異点の看過について

甲号意匠のパネル部前面側である正面図に表れた複数の平行な帯状部分のうち、最上部と上から4番目の細幅帯状部分は、溶接の肉盛りにより板の端部がはっきりとは表れておらず、この部分を特に段差として認定することまでは必要なく、この点の審決の認定に誤りはない。

(3)  取消事由3(両意匠の比較検討の誤り)について

ア 共通点(1)(全体の構成)についての判断の誤りについて

本件登録意匠と甲号意匠との類否判断をする場合には、甲号意匠の出願前の意匠(甲第5、第6号証)あるいは登録後の意匠(甲第7号証)等に存在しない甲号意匠にのみ固有の形態を特徴点として、その特徴点を本件登録意匠と対比するのではなく、甲号意匠が全体として有する形態を本件登録意匠と対比するべきである。

また、土留用パネルは、上下水道の埋設工事等において用いられる土留装置の主要な構成部材であり、工事関係者は、工事の作業過程において全方向からこれを見ることになるから、全方向から見た全体の形態及び各部の形態が看者の注意を惹き、意匠の要部となる物品であるが、特に、土留用パネルの外観の全体的構成態様が看者である工事関係者の注意を強く惹くところである。

したがって、共通点(1)は、土留用パネルとして土留方式の基本とその構造の一致からくる共通点であり、形態全体の基調を決定している点であって、その影響は大きいとの審決の判断に誤りはない。

イ 共通点(2)(パネル部の構成比等)についての判断の誤りについて

甲号意匠の特徴点を、その出願前公知など他の意匠が有する形態を除いたものに特定して、その特徴点を本件登録意匠が具備するか否かを対比する類否判断が許されないことは、前記のとおりである。したがって、原告が指摘する甲第9ないし第15号証に甲号意匠との形態の共通点があるからといって、甲号意匠と本件登録意匠の共通点が左右されるものではなく、その共通点を有する本件登録意匠が甲号意匠と非類似になるというものでもない。

ウ 共通点(3)(支柱部の外形)及び(4)(接続金具の外形)についての判断の誤りについて

両意匠の類似判断において、共通点(3)及び(4)が、引用された公知意匠である甲号意匠のみに固有にみられる特徴であることを必要としないこと、及び類否判断に当たって、本件登録意匠と甲号意匠との形態を全体として観察すべきことは、前記のとおりであり、審決のした共通点(3)及び(4)についての判断に誤りはない。

エ 差異点(イ)ないし(ハ)についての判断の誤りについて

(ア) 差異点(イ)(パネル部下端寄り部分)について

パネル部の下端寄り部分を細幅斜面状として下端部を尖らせることなく垂直面状とすることは、パネルの形態として普通のことであって(甲第8号証正面図、甲第9号証第3図、甲第10号証参考図、甲第14号証第7図、乙第8号証3頁、乙第9号証、乙第10号証)、本件登録意匠における特徴部分又は創作部分とはいえないものである。

したがって、本件登録意匠が、下端部を尖らせることなく垂直面状に構成したことに、高く評価すべき特徴を認めることもできず、審決の判断に誤りはない。

(イ) 差異点(ロ)(パネル部の上辺沿い部分)について

前記のとおり、土留用パネルにおいて、パネル内面が垂直面のみから構成され、パネル部の上辺部に段差がないことが常態化されているのであって、本件登録意匠のように段差を設けないことに特段の特徴がみとめられない以上、この点の相違によって本件登録意匠が甲号意匠と非類似となるものではない。

また、甲号意匠における段差は、パネル表面を形成する薄い板の厚さ(実物において約3ミリメートル程度)によって生ずるわずかな段差であって、通常の注意力によっては視認できない程度のものであるから、その影響は軽微に止まる旨の審決の判断に誤りはない。

(ウ) 差異点(ハ)(パネル部の前面部等)について

a 意匠登録を受けることができる意匠は、創作された意匠であり(意匠法3条)、意匠の創作は美的効果を意図してなされるものであるから、一般に、出願意匠が公知意匠とは非類似であるとして登録されるか否かの類否判断において、出願意匠が公知意匠と差異点があり、その差異点が積極的に美的効果を意図して表されたものか否かの点を取り入れることは、誤りではない。

本件登録意匠における微小円状突起の配列は、パネルを梁に溶接した際の溶接痕であって、パネルの接合方法としてこのような技法を採用した場合、パネル部前面に溶接痕が微小円状突起の配列として表れることは技術的な必然にすぎず、しかも、上下3列の突起列の間の間隔は等間隔であるから、意匠的な特徴や創作として評価し得るものではない(乙第7号証参照)。さらに、土留用パネルにおいて、微小円状突起の配列がパネル部前面に表れる点は、先行意匠である乙第9及び第10号証の各パンフレット並びに乙第11号証のFig.1に示されており、土留用パネルにおける微小円状突起の配列は、周知のありふれた形態であり、本件登録意匠の特徴部分や創作部分として評価されるべきものではない。

また、パネル部前面は、作業者、建設業者などの目に触れ、観察される部位であることは認められるが、専ら土木工事に使用される土留用パネルの性質からして、パネル部前面が他の部位(支柱、接続金具、全体の構成等)に比べて強く観察されるというものではなく、この部分のみを特に重要視すべきではない。さらに、各突起は、内部の梁へのパネルの接合(具体的には、パネルにあらかじめ開けた小さい孔に溶材を流し込んで溶接する「栓溶接」)する場合の溶材の盛り上がり部分であると理解されるが、通常の栓溶接では、板厚が3ないし5ミリメートル程度の板に対しては、孔の直径は6ないし8ミリメートル程度である。現に、原告の「NKKライトパネル」と題するカタログ(乙第7号証、甲第4号証)によれば、パネル内面の小突起は、殊更凝視しなければ判別できないほど目立たない状態である。

b 本件登録意匠の類似意匠登録においても、類似登録意匠第1号、同第3号及び同第5号の意匠については、パネル内面の小突起配列は表出されていない(乙第1、第3及び第5号証参照)。このことは、原告自身も、本件登録意匠とこれらの類似意匠の出願に際しては、パネル部前面の小突起が本件登録意匠の特徴点であるとは考えていなかったことを示すものである。

原告は、本件登録商標の類似登録意匠第1号、同第3号及び同第5号の意匠権を放棄したことを主張するが、意匠権の放棄は、遡及的効力を有しない(意匠法36条、特許法98条1項1号)から、類似登録意匠第1号、同第3号及び同第5号がパネル前面の小円状突起の配列を具備しないという矛盾は、上記意匠権の権利放棄によっても解消されないものである。

c 吊り下げ方の差異は、特に目立つものではなく、特にパネル内に設けた4個の小円孔からなる本件登録意匠の構成が吊り下げ手段として常套的なもの(例えば、甲第8号証)であるから、その影響は微弱であるとした審決の判断に誤りはない。

オ 差異点(ホ)(接続金具)についての判断の誤り

(ア) 接続金具の位置の差異について

前記(1)イのとおり、本件登録意匠は、上下反転使用が可能であり、接続金具の形成位置が本件登録意匠の形態上の特徴をなすものとは認められない。

さらに、本件登録意匠は、支柱の下端に接続金具を形成した構造から見て、その下段にさらにパネルを接続することが予定されているが、下段のパネルを接続すると、接続金具の位置は下段のパネルの支柱の上端に接続金具を設けた場合と区別がつかないから、使用状態においては、接続金具の形成位置の上下の相違による差異感は、著しく減少するものである。

(イ) 接続金具の形状の差異について

両意匠の接続金具の形状は、共通点(4)及び(6)のとおり、多くを共通にしており、差異点は少ない。しかも、パネル全体の構成態様からみると微細な差異であるから、目立つものではない。

また、この種物品において、接続金具は、上下の縦梁の間に介在し、ボルトで連結固定されるものであるから、両者の接続金具の形状の差異は、意匠の類否判断に重要な影響を及ぼすほどのものではない。

カ 差異点全体の奏する効果についての判断の誤りについて

本件登録意匠においては、差異点が纏まってある統一的な思想のもとに独自のデザインを形成しているというようなものではなく、単にいくつかの差異点が散在している程度のものであり、付加される相乗的な効果は、実際には認められないものであるから、この点の審決の判断に誤りはない。

理由

1  争いのない事実

(1)  両意匠

本件登録意匠の形態等(審決書6頁7行ないし11行)及び甲号意匠の形態等(同6頁13行ないし18行)は、当事者間に争いがない。

(2)  物品の点

本件登録意匠と甲号意匠の比較検討(審決書6頁末行ないし13頁14行)のうち、両意匠の意匠に係る物品が実質的に同一であること(同6頁末行ないし7頁1行)は、当事者間に争いがない。

(3)  形態のうち争いのない点

そして、両意匠は、パネル部と支柱部と接続金具により構成されるものであること(審決書7頁3行、4行)、具体的構成における共通点(2)ないし(6)の認定(同7頁10行ないし8頁8行)、並びに具体的な態様における差異点(イ)、(ロ)、(ニ)及び(ホ)の認定(同8頁10行ないし16行、9頁4行ないし15行)は、当事者間に争いがない。

2  取消事由1(共通点(1)の認定の誤り)について

原告は、本件登録意匠においては、接続金具を支柱の下端部に取り付け、上面を面一状とし突出部をなくすることにより、多くの利便性を得ているものであり、両意匠の共通点(1)として、「支柱部の上端または下端部に横断面が扁平コ字状で背の低い接続金具を突設した基本的な構成態様のものである点」(審決書7頁8行ないし10行)とした審決の認定部分は誤りである旨主張する。

しかしながら、前記当事者間に争いのない本件登録意匠の形態及び甲第2号証によれば、本件登録意匠は、上下反転使用を妨げる構造はなく、上下反転使用が可能なのものであると認められる。さらに、乙第6号証によれば、本件登録意匠の類似登録意匠第6号は、接続金具を支柱部の上端に取り付けたものであることが認められる。これらの事実によれば、本件登録意匠と甲号意匠との間で、接続金具の形成位置につき差異点があるものと認めることはできない。これに反する原告の主張は採用することができない。

よって、審決の共通点(1)の認定に誤りはない。

3  取消事由2(差異点の認定の誤り)について

(1)  差異点(ハ)(パネル部の前面部等)の認定の誤りについて

前記当事者間に争いのない本件登録意匠の形態及び甲第2号証によれば、本件登録意匠のパネル部前面の微小円状突起は、上下3列の突起列の間の間隔は等間隔であるが、3列とも、横幅の中央部の略3分の1は、他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっていることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。そして、各突起の大きさは、本件登録意匠の意匠公報(甲第2号証)に掲載された図面に基づき、パネル部の横幅を2ないし3メートルと仮定して判断すると、直径1.2ないし1.8センチメートル程度になり、実物を想定したときでも、相当の大きさとなるものと認められる。

被告は、各突起はパネルにあらかじめ開けた小さい孔に溶材を流し込んで溶接する「栓溶接」の場合の溶材の盛り上がり部分であり、通常の栓溶接では、板厚が3ないし5ミリメートル程度の板に対して、孔の直径は6ないし8ミリメートル程度である旨主張する。しかしながら、本件登録意匠の図面に現れた上記突起部が被告主張の栓溶接によるものであると認めるに足りる証拠はないから、被告の上記主張は採用することができない。

そうすると、差異点(ハ)として、「本件登録意匠は、(パネル部)前面側上下三列に微小円状突起を等間隔に配列し、」(審決書8頁17行ないし19行)との審決の認定は、誤りとまではいえないが、不十分なものと認められる。

(2)  差異点の看過について

前記当事者間争いのない甲号意匠の形態及び甲第3号証によれば、甲号意匠は、パネル部前面側である正面図に表れた複数の平行な帯状部分のうち、パネル部の上辺沿い部分だけでなく、上から4番目の細幅帯状部分も、2番目と3番目のやや幅広の帯状部分からやや奥まった段差部を形成していることが認められる。

4  取消事由3(両意匠の比較検討の誤り)について

(1)  共通点(1)(全体の構成)についての判断の誤りについて

甲第5ないし第7号証(意匠公報等)、乙第8号証(たて込み簡易土留設計施工指針)及び弁論の全趣旨によれば、土留用パネルは、上下水道の埋設工事等に用いられる「たて込み簡易土留工法」において、その掘削した土壁部分の土留工事に用いられる土留装置に組み込まれて工事現場で使用されるものであること、たて込み簡易土留めには、スライドレールにパネルをはめ込んでいく「スライドレール方式」と、両側に縦梁を固着したパネルを用いる「縦梁プレート方式」の両方式があるが、本件登録意匠も甲号意匠も、共に縦梁プレート方式に用いられる土留用パネルについての意匠であること、縦梁プレート方式における土留用パネルは、横長長方形状の「パネル」、パネルの両側端に固着した角柱からなる「縦梁」、及び「接続金具」から構成されるものであり、そのような形態は、同じく「縦梁プレート方式」に属する甲号意匠の先行意匠である甲第5号証(登録558183号意匠公報)及び甲第6号証(ドイツ特許第2556970号公報)並びに甲号意匠の後願意匠である甲第7号証(登録第868572号意匠公報)にも見られる特徴であることが認められる。

そうすると、「全体が、横長方形板状のパネル部の前面左右端沿いにパネル部の高さと略同高の角柱状の支柱を接合立設し、支柱部の上端または下端部に横断面が扁平コ字状で背の低い接続金具を突設した基本的な構成態様のものである点」との共通点(1)は、縦梁プレート方式における土留用パネルであることからくる必然的な形態上の特徴であると認められる。したがって、共通点(1)を両意匠の類否判断において高く評価することはできないものと認められ、「形態全体の基調を決定している点であって、その影響は、大きいというべきである。」とする審決の判断は誤りである。

これに反する被告の主張は採用することができない。

(2)  共通点(2)(パネル部の構成比及び太鼓造り)についての判断の誤りについて

ア  前記甲第5ないし第7号証、乙第8号証及び弁論の全趣旨によれば、パネル部の外形につき、その横長方形状の横幅が高さの略3倍、奥行きが高さの10分の1弱であることは、縦梁プレート方式における土留用パネルにおいて通常採用される構成比であることが認められるから、この点も、両意匠の類否判断において、その影響はかなり大きいものであると評価することはできず、これに反する審決の判断は誤りである。

イ  さらに、「太鼓造り」の点、すなわちパネル部の表面が階段状等でなく平らに形成されている点については、甲号意匠のように典型的な縦梁プレート方式の土留用パネルにおいて、パネル部前面を平らに形成したものが甲号意匠の出願前に存在したことを認めるに足りる証拠はないが、甲第9ないし第15号証によれば、スライドレール方式に用いられる土留用パネルにおいてパネル部の表面を平らに形成したものや、縦梁プレート方式に属するもの(ただし、支柱部がパネル部の内側に設けられた点で、典型的な縦梁プレート方式のものとは異なる。)の土留用パネルにおいては、パネル部の表面を平らに形成したものが甲号意匠の出願前から周知の形態であったことが認められる。

そうすると、両意匠がパネル部の外形において「太鼓造り」の点で共通すること自体は、両意匠の類否判断においてさほど重視すべきことではないというべきである。

(3)  共通点(3)(支柱部の外形)及び(4)(接続金具の外形)についての判断の誤りについて

前記甲第5ないし第7号証、乙第8号証及び弁論の全趣旨によれば、支柱部の外形につき、奥行きより横幅がやや長く正面側の角部を角丸状に丸めたものであり、その横幅が高さの数分の1であり、その背面部がパネル部の背面と面一状で、正面は、パネル部正面より前方にやや突出しているとの共通点(3)、並びに断面扁平コ字状の接続金具の外形につき、支柱部の前面、外側面の奥行きのほとんど、及び支柱の前端から内側面のパネルにぶつかる位置までに、支柱の角丸状に沿って被せるように金具の略3分の1の高さの範囲の部分を支柱に重ねて取り付けたものであるとの共通点(4)は、縦梁プレート方式における土留用パネルにおいて通常採用されるものであることが認められるから、これらの点も、両意匠の類否判断においてその影響はかなり大きいものとか、相当程度のものであると評価することはできないものと認められ、これに反する審決の判断は誤りである。

(4)  共通点(5)及び(6)について

審決が判断するとおり、左右の支柱の前面左右中央位置に、上下方向に長穴を複数個設けたとの共通点(5)の影響は、多少の程度のものであり、左右の接続金具の前面中央に1個の小円孔を設けたとの共通点(6)の影響は、微弱に止まるものと認められる(原告もこれらの点については争っていない。)。

(5)  差異点(イ)ないし差異点(ハ)(パネル部の前面部等)についての判断の誤りについて

ア(ア)  当事者間に争いのない差異点(イ)は、パネル部の下端寄り部分につき、甲号意匠は、その下端沿い部分の前面側を細幅斜面状とし、下端部を尖らさせているのに対し、本件登録意匠は、垂直面状である点というものであり、差異点(ロ)は、パネル部の上辺沿い部分につき、甲号意匠は、細幅段差面状であるのに対して、本件登録意匠は、段差がない点、というものである。

そして、前記のとおり、甲号意匠は、パネル部前面側である正面図に表れた複数の平行な帯状部分のうち、上から4番目の細幅帯状部分においても、2番目と3番目のやや幅広の帯状部分からやや奥まった段差部を形成しているものである。

さらに、差異点(ハ)は、本件登録意匠のパネル部前面の突起は、上下3列の突起列の間の間隔は等間隔であるが、3列とも、横幅の中央部3分の1は、他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっており、特徴ある形状となっているものである。そして、各突起の大きさは、本件登録意匠の意匠公報(甲第2号証)に掲載された図面に基づき判断すると、パネル部の横幅を2ないし3メートルとしても、直径1.2ないし1.8センチメートル程度あると認定されるべきものであり、実物を想定しても、各突起の大きさは相当大きいものと認められる。

(イ) 被告は、土留用パネルにおける微小円状突起の配列は、乙第9ないし第11号証に示されてように、周知のありふれた形態にすぎない旨主張するが、乙第9ないし第11号証によれば、これらに記載されているパネルにおける微小円状突起は、横方向に数列、等間隔に配列されたさほど特徴のないものであり、本件登録意匠における円状突起の配列とは異なるものであることが認められるから、乙第9ないし第11号証に記載された円状突起の配列と本件登録意匠における円状突起の配列を同視することはできず、被告の上記主張は採用することができない。

(ウ) なお、乙第1、第3及び第5号証によれば、本件登録意匠の類似登録意匠第1号、同3号及び同5号には、「パネル部前面に突起によって形成された横幅の中央部3分の1は他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっている模様」が存在しないことが認められるが、本件登録意匠の形態並びに乙第1ないし第6号証により認められる本件登録意匠の類似登録意匠6件の形態を比べれば、本件登録意匠の類似登録意匠第1号、同3号及び同5号が本件登録意匠の類似意匠として登録されたことは誤りであったものと認められる(甲第19号証によれば、平成12年1月19日付け登録により、類似意匠登録第1号、同第3号及び同第5号の意匠権は放棄されたことが認められ、これによって、本件登録意匠につき誤った類似意匠が登録された状態は解消されたものというべきである。)。

イ  上記アに説示の事実によれば、本件登録意匠のパネル部前面には、横幅の中央部3分の1は他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっている上下3列の突起列が設けられており、各突起の大きさは、かなり大きく、目立つものであって、この3列の突起列は、看者の注意を惹くものであるところ、甲号意匠のパネル部前面には、傾斜面である最下端部を除くと、4つの細幅帯状部分が形成され、最上部と上から4番目の細幅帯状部分は、2番目と3番目の帯状部分よりも細く、しかも、2番目と3番目の帯状部分よりもやや奥まった段差部を形成しているものである。

そして、パネル部は、その土留パネル全体の中で面積的に占める割合が極めて大きく、その前面部は、土留パネルが掘り溝の内側に設置された際に、内側で作業を行う看者の目に最も触れやすい部位であると認められることからすると、上記に説示したパネル部前面における形態の差異が意匠の類否の判断に及ぼす影響は、極めて大きいものというべきであり、仮に突起の配列が梁への接合のために生じるものであり積極的に美的効果を意図して現されたものではないとしても、その影響が小さいものと認めることはできない。

これに反する被告の主張は採用することができない。

ウ  甲第8ないし第10号証、甲第14号証、乙第8ないし第10号証及び弁論の全趣旨によれば、土留用パネルにおいて、下端沿い部分の前面側を細幅斜面状とし、下端部を尖らせること(甲号意匠)は、当該パネルが最下端のものとして使用されるか等の点を考慮して決められる事項であることが認められるから、差異点(イ)の類否判断に与える影響は、さほど高いものではないと認められる。

これに反する原告の主張は採用することができない。

(6)  差異点(ニ)(支柱部に設けられた孔)について

差異点(ニ)の点は、両意匠の略同部位に近似した孔を配置したという共通点の中に埋没する微差であって、その影響は、微弱なものと認められる(原告もこの点については争っていない。)。

(7)  差異点(ホ)(接続金具)についての判断の誤りについて

本件登録意匠は、上下反転使用が可能であると認められることは、前記2のとおりであり、また、両意匠の接続金具の形状の差異も、パネル全体の構成態様からみれば微細な差異であるから、接続金具の位置及び形状が類否判断に及ぼす影響も微弱ないし軽微であるというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

(8)  総合判断

以上説示した共通点、差異点の類否判断に及ぼす影響を総合して検討すると、「全体が、横長方形板状のパネル部の 全面左右端沿いにパネル部の高さと略同高の角柱状の支柱を接合立設し、支柱部の上端または下端部に横断面が扁平コ字状で背の低い接続金具を突設した基本的な構成態様のものである点」との審決認定の共通点(1)は、「縦梁プレート方式」における土留用パネルであることからくる必然的な形態上の特徴であると認められるから、共通点(1)を両意匠の類否の判断において高く評価し、過大視することはできないものと認められるところ、本件登録意匠のパネル部前面には、横幅の中央部3分の1は他の部分より突起相互の間隔が狭く密になっている上下3列の突起列が設けられており、その突起の大きさはかなり大きく、目立つものであって、この3列の突起列は、看者の注意を惹くものであるのに対し、甲号意匠のパネル部前面には、傾斜面である最下端部を除いても、4つの細幅帯状部分が形成され、最上部と上から4番目の細幅帯状部分は、2番目と3番目の帯状部分よりも細く、しかも、2番目と3番目の帯状部分よりもやや奥まった段差部を形成しており、このようなパネル部前面の形状の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、極めて大きいものというべきである。

そうすると、その他の共通点(いずれも、前記説示のとおり、類否判断に与える影響がさほど大きくはないもの又は軽微なものである。)、差異点(上記以外の差異点も、前記説示のとおり、類否判断に与える影響は軽微又は微弱である。)を考慮しても、両意匠の共通点が上記差異点を凌駕しているものと認めることはできず、本件登録意匠は甲号意匠に類似するものということはできない。

(9)  まとめ

したがって、これに反する「両者は、結局のところ類似するという他はない。」(審決書13頁13行、14行)との審決の判断は誤りであり、審決の取消しを求める原告の請求は理由がある。

5  結論

よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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